老人と桜
夢伝言
桜の枝一本を戴きて、空いた酒瓶に挿す。
桜の蕾はまだ堅いものあるものの、わずかに咲き出した
小さな花びら愛おしく、小枝を手前に添える。
枝折りし際にこぼれし花びら、酒杯の横に散らばりて 趣。
側には、みたらし団子二本 盛られた皿ひとつ。
ふと見上げると、一筋の光あり、目凝らすと、
酒杯の前に座り込んでいる 一人の老人。
どちら様 ? との問いに
三陸のとある山裾に住んどった という。
知らぬまま あの世なりという所にいて、何か心残りあるのか
今ここにおるようだという。
思わず、心残りとは? と重ねると
この歳まで生きながらえた者 お恥ずかしい限りじゃが、
桜の花びらと酒の香りに誘われたのか・・・いつの間に
ここに来ていたように思う、という。
思い返せば、明日は三月十一日、東北大震災から十年目・・
ひょっとして・・あの震災で・・と問いかけて 顔を上げると
すでに杯を飲み干し、団子を頬張ったのであろうか・・
その姿はすでになかった。
あふれる涙を押さえて、天を見上げる。
また、いらしてください、と 精一杯の声をかけた。
2021・3・10